2025.10.02  2025.09.29|お知らせ

小上がり席とは?店舗設計で取り入れる前に知っておきたいメリット・デメリット

小上がり席とは?店舗設計で取り入れる前に知っておきたいメリット・デメリット

小上がり席は、空間に奥行きや個性をもたらす設計要素として注目を集めています。一見するとシンプルな構造ですが、使い方や設置環境によって利便性は大きく変化します。導入の前に、具体的なメリットとデメリットを把握しておくことで、後悔のない空間づくりにつながります。本記事では、設計時に見落としがちなポイントも踏まえ、小上がり席を実用的かつ効果的に取り入れる方法をわかりやすく解説します。

小上がり席とは?基本構造と設置の目的

小上がり席とは?基本構造と設置の目的

段差のある空間が生み出す機能的な境界

小上がり席とは、床面を一段高くすることで空間に段差を設けた構造のことを指します。座敷スタイルをイメージする方も多いですが、その本質は「空間の性質を変える手法」として活用されている点にあります。段差によって視線の高さが変わるため、同じ空間にいながらも、独立した領域としての印象を与えることが可能です。

また、段差部分の下に収納スペースを設けられる点も、小上がりの大きな特徴です。収納機能を持たせることで、空間全体の使い勝手を向上させられるため、限られた面積を有効活用したい場面でも選択肢になり得ます。

このように、小上がりは単なる装飾的な要素ではなく、視覚的・機能的な役割を両立する設計要素として定着しつつあります。居心地の良さや目的別のゾーニングを演出する手段として、多くの空間設計で取り入れられています。

家庭・店舗での活用の違いと共通点

住宅においては、リビングの一角に設けられるケースが多く、畳を敷いてくつろぎスペースとしたり、子どもの遊び場として活用されたりする傾向があります。一方、店舗で導入される場合は、座敷席や半個室的な座席の設計に活用されることが多く、来客の滞在時間や居心地に影響を与える要素として設計されます。

こうした利用の違いがある一方で、「空間に段差を設けることで、目的や使用者の行動をコントロールしやすくする」という点は共通しています。空間を分けつつも、完全に仕切るわけではないため、開放感を保ちながら適度なプライバシーを確保できる設計が可能となります。

さらに、視線や動線を意識したレイアウトによって、小上がり席は空間にリズムを与える役割も果たします。立つ・座る・移動するという行動の変化に対して、床の高さで自然な区切りをつけることで、動きや目的に沿ったレイアウトを形成できる点が評価されています。

こうした特性を活かすことで、小上がり席は住宅でも店舗でも、「居場所の質」を高める設計手法として支持を得ています。空間の使い方に明確な目的がある場合、設計段階から小上がりの導入を検討する価値があります。

小上がり席がもたらす5つのメリット

収納と空間演出を両立できる設計

小上がり席の最大の利点の一つは、床下を収納スペースとして活用できる点です。限られたスペースでも、見た目を損なわずに収納力を高められる設計は、機能とデザインの両立に貢献します。収納としての用途だけでなく、段差自体が視覚的なアクセントとなり、空間に立体的な変化を加える役割も果たします。

視線の高低差が空間に奥行きを生み、メリハリを与えるため、広さを強調したい場面やゾーニングを意識したいシーンにも適しています。収納と演出を兼ねた設計により、限られた面積を有効に使いながら、空間全体の印象も整えやすくなります。

視線の高さを変えて居心地を調整

同じ空間の中でも視線の高さが変わることで、自然と落ち着ける場所を演出できるのも小上がり席の特徴です。段差があることで、同一フロア内でも視覚的な領域分けが生まれ、くつろぎ感や安心感を得やすい構造になります。

この効果は、特に人との距離感を大切にしたい場面や、会話のしやすさを重視する空間において有効です。また、周囲の視線が気になりにくくなることから、休憩や軽食など、短時間の利用にも適しています。

空間に高低差を加えることで得られる心理的な効果は、単なる機能性だけでなく、居心地や印象そのものにも影響を与える要素となります。

省スペースでも独立性を保てる構成

個室のように壁を設けずとも、段差を設けるだけで空間に独立性を持たせることが可能です。これは、省スペースで区切られた空間をつくるうえで大きな強みとなります。小さな面積でも使用者に「特別な場所」という印象を与えやすいため、コンパクトな設計が求められるケースにおいて有効な選択肢です。

また、段差を利用することで、視覚的にも明確な区切りが生まれるため、仕切りやパーテーションを使わずに空間を整理することができます。コストや構造上の制限がある場面でも導入しやすく、柔軟な設計が可能となる点も支持される理由のひとつです。

家族・スタッフ・客の動線に応じた使い分け

小上がり席は、利用者の動線に応じて目的別に使い分けやすい点でもメリットがあります。たとえば、家庭内では子どもの遊び場や来客時の応接スペースとして活用され、店舗では静かに過ごしたい来客への座席として機能します。

視線の高低差や段差によって、空間の流れを自然にコントロールできるため、移動や行動に負担をかけず、使いやすさを維持することが可能です。また、段差があることで「入る」「上がる」という意識が生まれ、目的に沿った使い方が促されやすくなります。

空間全体の流れを妨げることなく、動線と連携した使い分けができる点は、設計時に大きな価値をもたらします。

柔軟にデザインへ組み込みやすい構造

小上がり席は、和風・洋風を問わず、さまざまなデザインに組み込みやすいという柔軟性を持っています。畳や木材を使用した和の雰囲気から、モダンなインテリアと組み合わせた洋風スタイルまで、素材や色味によって多様な印象をつくることが可能です。

また、照明やカーテンなどの演出要素との相性も良く、店舗であればブランドイメージに合わせた設計がしやすくなります。設計の自由度が高いため、他の空間要素とバランスを取りながら導入しやすいことも評価されています。

このように、機能性を持ちつつも、インテリア全体の調和を妨げない柔軟な設計要素として、小上がり席は多様なニーズに応えることができます。

導入前に押さえておきたいデメリット

導入前に押さえておきたいデメリット

バリアフリー性の低下と安全面の課題

小上がり席を設けることで段差が生じるため、バリアフリー性に影響が出やすくなります。特に高齢者や小さな子どもが利用する空間では、段差の昇降が転倒などのリスクにつながるおそれがあります。高さがあることで心理的な区切りは生まれる一方で、足元への注意が必要になる場面が増える点は設計時に考慮すべきです。

また、段差の存在に慣れていない来客がいる場合、安全性を確保するための視認性や案内表示の工夫が求められます。照明や素材の選び方によって、段差が目立たなくなる場合には、つまずきの原因になりやすくなるため注意が必要です。見た目の美しさを優先するあまり、安全面が後回しにならないよう設計の段階でバランスを取ることが求められます。

メンテナンス性と掃除の手間

段差がある構造は、掃除やメンテナンスの面で手間がかかりやすいという側面もあります。床下収納を備える場合は、構造的に開閉部分や隙間が生じるため、ホコリが溜まりやすくなります。日常的な掃除がしづらくなることで、衛生状態を維持する手間が増える可能性があります。

また、掃除道具や清掃機器の利用に制限が出ることもあり、特に段差の昇降がある箇所ではロボット型の清掃ツールが使いにくくなるケースも考えられます。構造上の細かい部分まで清掃が行き届きにくいため、導入後のメンテナンス方法についても事前に検討しておく必要があります。

見た目や利便性に加えて、日常の維持管理まで視野に入れておくことで、長期的に快適な空間を保ちやすくなります。

自由なレイアウト変更への影響

一度小上がり席を設置すると、空間全体のレイアウトに影響を及ぼしやすくなります。段差が固定された構造であるため、後から家具の配置を変えたい場合や席の構成を変更したい場合に、柔軟な対応が難しくなることがあります。

特に店舗の場合、客席の数や配置を見直す必要が生じた際、小上がり席がレイアウトの自由度を制限する要因となることがあります。また、空間全体の統一感を保とうとすると、他のゾーンとの調和にも影響が出るため、変更の幅が狭まりがちです。

このように、導入時には有効に見える構造でも、運営や利用状況の変化に応じて柔軟に対応するには制約が生じる可能性があります。レイアウトを頻繁に見直す可能性がある環境では、長期的な視点で設計方針を定めておくことが重要です。

店舗設計で活用する小上がり席の実例と傾向

飲食業界で多く採用される理由

小上がり席は、飲食店の空間設計において非常に高い頻度で活用されています。その背景には、限られたスペースの中でも滞在時間を快適にし、顧客満足度を高められる点が挙げられます。段差によって他の座席と視線がずれることで、周囲の視線を気にせずに過ごせる落ち着きが生まれます。

また、靴を脱いで上がるという動作が、日常とは異なる特別感を演出する要素としても機能します。くつろぎを求める客層や、ファミリー・グループ利用を想定した場合に有効な設計であり、リラックスして長時間滞在しやすい環境をつくり出すことができます。

こうした心理的効果は、単に席を提供するだけでなく、体験としての価値を高める役割も担っています。

落ち着きと距離感のバランスを活かす

小上がり席は、完全な個室ではないものの、段差によって空間にゆるやかな区切りをつくることができます。そのため、開放感を損なうことなく、ある程度のプライバシーを確保する設計が可能となります。

とくに会話のしやすさや周囲との距離感を重視する客層にとっては、圧迫感のない適度な独立性があることで、店舗への印象に好影響を与える傾向があります。スタッフとの視線も自然に分かれるため、接客のタイミングや動線設計にもプラスの効果が期待されます。

さらに、同一空間の中に複数の小上がり席を配置することで、ゾーン分けが明確になり、混雑時でも無秩序な印象を与えにくくなります。結果として、店内の動きに秩序が生まれ、全体の運営にも好影響をもたらす構成となります。

回転率や収容人数への配慮との関係

店舗における座席設計では、滞在時間のコントロールや収容人数の最適化が重要な要素となります。小上がり席は、くつろぎを提供する反面、滞在時間が長くなりやすい傾向があります。これにより、回転率とのバランスを取る必要が生じることになります。

例えば、注文頻度の高い短時間利用の業態では、過度なくつろぎ空間が運営上の負担になる可能性もあります。一方で、じっくりと過ごす時間を提供するコンセプトの店舗では、小上がり席がブランドの価値を高める要素となることがあります。

収容人数についても、小上がり席の形状によっては、可動性のある椅子席より配置に制限が出る場合があるため、初期段階での座席設計が肝心です。動線と合わせて座席数を調整しながら、利用目的に沿った空間づくりを行うことが求められます。

小上がり席を導入する際の設計上のポイント

段差・素材・照明・空調の最適化

小上がり席を取り入れる際、まず重要になるのが段差の高さの検討です。高すぎると昇降が負担になり、低すぎると空間の切り替えとしての効果が薄くなってしまいます。見た目のバランスと利用者の動きやすさを両立させる設計が求められます。

加えて、床材や畳などの素材選びも慎重に行う必要があります。滑りにくさや肌触りなど、利用者の体感に関わる要素として機能するため、清掃のしやすさや耐久性と合わせて比較検討することが望まれます。

さらに、段差によって生まれる高低差がある空間では、照明と空調の計画にも配慮が必要です。特に照明は影の落ち方に差が出やすく、暗く感じやすい箇所が生まれることもあります。空調の風の流れも段差の位置や天井の高さに左右されやすいため、快適性を損なわない設計が重要となります。

利用客層に合わせた高さと配置の工夫

設計においては、対象とする利用客層に応じた構成を考えることが不可欠です。たとえば、高齢の方や小さな子どもを想定する場合には、上り下りしやすい段差に加え、つかまる場所や踏み台の有無も検討対象となります。

一方、比較的若年層やグループ利用を想定する場合は、広さや動きやすさを重視した配置が適しています。利用目的に応じて、視線や動線に無理がないよう調整することで、使用中の快適性を高められます。

配置の工夫においては、入口からの導線や他の座席との位置関係も見逃せません。視線が交差しにくい構成や、混雑時でもスムーズな移動ができる設計が、利用者のストレスを減らし、満足度につながる要素となります。

視認性とプライバシーのバランス調整

小上がり席の設計では、開放感とプライバシーの両立が求められる場面が多くあります。完全な個室ではない分、周囲の視線を遮りすぎずに、落ち着いて過ごせる空間をつくる必要があります。そのためには、視認性と囲い込みの度合いを調整する工夫が求められます。

例えば、腰高の仕切りや暖簾、家具の配置によって視界をやわらかく遮る方法は、圧迫感を与えずに独立性を確保する手段として有効です。必要に応じて、背面を壁にする構成にすることで安心感を高めることも可能です。

視線の抜けと遮りのバランスを取ることで、空間全体の統一感を損なわずに、それぞれの席に適度な居心地を持たせる設計が実現できます。こうした細かな工夫が、結果として空間全体の評価を左右する要素となるため、設計段階で意識的に取り入れていくことが重要です。

導入後に後悔しないためのチェックリスト

運営開始後の実用性をシミュレーション

小上がり席を設置する際は、見た目やアイデアだけで判断せず、実際の運用に落とし込んだ視点で検討することが不可欠です。設置後の使用頻度、使われ方、時間帯ごとの利用傾向などをあらかじめ想定し、席がどのような役割を果たすのかを具体的にイメージしておく必要があります。

また、飲食を伴う店舗であれば、スタッフが配膳や下膳を行う際の動きやすさ、提供するメニューとの相性なども影響します。階段の上り下りや姿勢の変化が業務に与える負担を把握し、設置後に運営上のストレスが発生しないかを検討する視点が求められます。

検討段階で一歩踏み込んだシミュレーションを行っておくことで、施工後にイメージとの乖離が生じるリスクを減らすことができます。

目的に合った使い方が維持できるかを確認

設置時に意図した目的が、実際の運用でもそのまま活かされるかどうかは非常に重要なポイントです。くつろぎを目的としたスペースが単なる物置きや予備席になってしまうケースもあるため、導入の目的とその維持方法を明確にしておく必要があります。

店舗の成長や業態の変化によって、席の使い方に変化が生じることも考えられます。その際に柔軟に対応できる設計になっているか、もしくは変更がしやすい構造かどうかも事前に確認しておくと安心です。

導入時のコンセプトをぶれさせずに運営していくには、目的の再確認と、それに沿ったマネジメントの工夫が不可欠です。

スタッフ動線・清掃導線との整合性

小上がり席は段差のある構造であることから、スタッフの動線や清掃ルートに影響を及ぼします。注文の取りやすさや料理の提供スピード、後片付けの流れまで含めて、導線が効率的に確保されているかを確認する必要があります。

とくに混雑時やピークタイムでは、移動距離や昇降回数が増えることで、業務負担が集中しやすくなるため注意が必要です。また、清掃のしやすさについても、段差部分や床下収納の構造によって差が出やすいため、日々の作業に無理がないかを事前に見直しておくことが大切です。

業務の効率と快適なサービス提供を両立させるためには、現場の視点での確認作業を重ねることが欠かせません。

デザイン性と機能性の両立を意識しよう

空間の「高さ」を活かした価値創出

小上がり席は、床の高さを調整することで空間に明確な役割を与える設計手法です。段差を設けることで動線に変化が生まれ、同一空間にリズムを与えることが可能となります。ただの演出にとどまらず、収納や視線調整といった具体的な機能面でも効果を発揮します。

導入する際には、単なる装飾的なアイデアとして捉えるのではなく、空間の目的や利用者の動きに応じて最適な高さや配置を検討することが求められます。段差による機能と演出が両立できたとき、小上がり席の価値はさらに高まります。

設置ありきではなく“活用”が鍵になる

小上がり席は設置すること自体が目的ではなく、日々の運営の中で「どう使われるか」が最も重要な視点となります。見た目の印象やデザイン性を優先しすぎると、実際の利用シーンとの間にギャップが生まれ、導入後の活用に支障が出る可能性も否定できません。

想定した使い方が維持されているか、利用者が心地よく過ごせているか、現場の運用に無理がないか。これらを継続的に確認することで、小上がり席の価値が保たれ、空間としての完成度も高まっていきます。

設計段階から活用までの流れを俯瞰し、デザインと機能が自然に調和した状態を目指すことが、満足度の高い空間づくりにつながります。

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監修者

IDEAL編集部

日本全国の美容室・カフェ・スポーツジム等の実績多数!
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