2022.03.24  2023.03.31|新規開業ノウハウ

パン屋を開業する流れやリスクとは?業界の市場規模や成功例もご紹介

パン屋を開業する流れやリスクとは?業界の市場規模や成功例もご紹介

「パン屋を開業するためにどのように準備すればよいか」「パン屋の開業を成功させるためのポイントを知りたい」などとお悩みではありませんか?パン屋開業には許可申請などのさまざまな準備が必要ですので、パン製造技術があるだけでは集客や売上を伸ばすことはできません。

そこで今回はパン屋開業の流れや回避したいリスクを解説します。パン屋業界の市場規模や成功例もご紹介しますので、パン屋開業をご検討中の方はぜひ参考にしてください。

パン屋業界の市場規模と展望

パン屋業界の市場規模と展望

開業準備を始めるために、まずパン屋業界の市場規模や展望を確認しましょう。業界の現状を知ることで経営戦略を立てやすくなり、開業準備を具体的に計画できるからです。2010年代以降の調査結果を踏まえて解説します。

日本全国で約12,000店舗のパン屋が営業している

経済産業省の調査によると、パン屋(仕入販売店と製造小売店の合計)が2018年に約12,000店舗ありました。四国や関西を中心とする西日本に多く、山形県や秋田県、宮城県などの米の名産地には少ない傾向にあります。

参照:総務省・経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査結果」

一方で帝国データバンクが2011~2019年に倒産動向を分析したところ、2019年のパン屋廃業件数が最多でした。廃業を選択する原因は競争激化や原材料高騰などさまざまですが、家族経営のパン屋においては後継者問題から廃業を選択するケースが多く見られました。

参考:帝国データバンク「パン製造小売業者の倒産動向調査(2019年)」

主な業態は「仕入販売」と「製造販売」である

パン屋の主な業態は、外部からパンを仕入れて販売する「仕入販売」と店内で製造した焼きたてのパンを提供する「製造販売」です。特に製造販売店はパン製造方法によって3形態(「オールスクラッチ製法」「ベイクオフ製法」「QBD製法」)に分類されます。

オールスクラッチ製法は店舗内で小麦粉から生地を製造して、成形や焼き上げまでの全工程を行います。生地製作の段階から独自の商品開発ができるので、開業するパン屋の独自性を出しやすいです。個人経営のパン屋に向いている製造方法ですが、パン職人として熟練した技術を磨く必要があります。

ベイクオフ製法は冷凍のパン生地を仕入れて、店舗内で成形から発酵、焼き上げまでの工程を行います。QBD製法は冷凍された成形済みのパンを仕入れて、焼き上げ工程のみを行う製法です。オールスクラッチ製法と比べるとパン製造に必要な面積や設備を抑えられ、効率よく大量生産できるためチェーン店向きの製造方法です。

パン需要が増える見込みである

矢野経済研究所では、2020年以降の日本国内パン市場が1兆5,000億円以上であるという見込みを示しています。「高級食パンブーム」や「食事系パンの夕食需要」などの市場が拡大していることを根拠として挙げています。

参考:矢野経済研究所「パン市場に関する調査を実施(2021年)」

日本人の食事の欧米型化が進んできたことにより、コメの消費量が減少傾向にあります。総務省の調査によると、2011年にパンの消費量が初めてコメの消費量を上回りました。

参考:総務省「家計調査」

農林水産省によりパン生産量が緩やかな上昇傾向にあることが報告されていることからも、パン需要増加が裏付けられています。

参考:農林水産省「食品産業動態調査」

パン需要が増加してきた要因として、例えば若者や高齢者の単身世帯と夫婦共働き世帯の増加が挙げられます。時短ができる簡便な食事の需要が高まっており、家庭でコメを炊飯する機会が減っています。

また中食(調理済みの食品を家庭で食べること)や外食の需要が増加しています。財務省の分析によると、少子高齢化が進むなかで中食と外食の利用は今後も拡大すると見込まれています。

参考:財務省「ファイナンス9月号 中食、外食市場の動向と課題」

パン屋を開業する流れ

パン屋を開業する流れ

業界の現状を把握したら、パン屋の開業準備に取りかかりましょう。限られた時間の中で様々な準備を行う必要があります。パン屋開業の流れを7ステップに分けて解説しますので、効率的に準備できるように計画してください。

コンセプトの設計と事業計画書の策定

パン屋を開業するエリアを市場調査して業態や商品、ターゲットにする顧客層などを検討したうえで、パン屋のコンセプトを設計します。設計したコンセプトに基づいて、事業計画書を策定しましょう。事業計画書は開業資金調達などのために外部へ事業内容を説明する際に必要になります。

物件探しと店舗のデザイン・工事

コンセプトや事業計画書に基づいて、パン屋を開業する物件を探します。出店エリアは集客に直結する要因ですので、開業資金と賃料の相場を照らし合わせながら慎重に検討しましょう。

物件を契約できたら、店舗の内装や外装をデザインして工事をします。予算をオーバーしないように、複数の業者から見積もりを取って比較しましょう。店舗工事には1カ月ほどを要するため、物件探しと店舗デザインを計画的に進める必要があります。

開業資金の調達

パン屋の開業資金(初期費用)は1,000~2,000万円程度です。出店エリアや業態、規模などによって異なるため、開業に必要な経費を細かく計算しなければなりません。自己資金だけで足りなければ、次のような資金調達が必要です。

  • 親族や知人からの借入
  • 民間金融機関の融資
  • 日本政策金融公庫や地方自治体の融資
  • クラウドファンディングの募集
  • 助成金や補助金の申請

開業に必要な資格・スキルの取得

パン屋を含む食品の製造・販売をする店舗を開業するためには、「食品衛生責任者」の資格を取得することが必須です。6時間程度の講習を受ければ、1日で資格を取得できます。なお調理師や栄養士などの資格保持者は受講免除となりますので、該当する資格を保有していないかを確認しておきましょう

参考:東京都福祉保健局「食品衛生責任者」

また経営者自らがパン製造を担当する場合は、毎日安定した品質で商品を提供するために製パン技術を習得しましょう。製パン技術を習得する必要があるなら、他社のパン屋で修行する方法やパン屋開業を支援している企業の製パン研修を受ける方法などを検討しましょう。

もちろんパン職人の経験がありパン製造の資格やスキルを習得している場合には、新たに資格を取得する必要はありません。また資格やスキルを所持する従業員を雇うことも可能です。

開業に必要な届出・許可の申請

パンを製造販売する店舗を営業するためには、食品衛生法に基づいて菓子製造業の営業許可を保健所へ申請することが必要です。また店舗内にイートインスペースを提供する場合には、飲食店営業許可の申請も必要です。

参考:厚生労働省「営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報」

菓子製造業や飲食店営業の許可を申請する流れは次の通りです。

  1. 食品衛生責任者の資格証明書を取得する
  2. 店舗設計図を持って保健所へ事前相談に行く
  3. 保健所の指示に従い設備を施工する
  4. 保健所へ営業許可を申請する
  5. 保健所の検査を受ける
  6. 問題があれば施設を改修する
  7. 問題なければ営業許可が下りる

参考:東京都福祉保健局「営業許可・届出の概要」

なおパンを仕入販売する店舗を営業するためには、販売するパンの種類によって食品販売業の許可が必要になります。都道府県ごとに判断が異なるので、開業するエリアを管轄する保健所に問い合わせましょう。

集客手段の決定

開業数か月前にはWebサイトやチラシなどの集客手段を決定して、開業を宣伝しましょう。ターゲットとなる顧客層の生活行動を分析して、宣伝広告が届く媒体を選ぶ必要があります。

例えば若年層をターゲットにするパン屋を開業するなら、SNS上でオープンキャンペーンを実施すると効果的です。来店してくれた顧客へノベルティグッズやパンをプレゼントすればキャンペーンの様子がSNS上でさらに拡散されることが期待でき、開業したパン屋の認知度を高めながら効果的に集客できるでしょう。

従業員の採用・研修

従業員を雇用する場合は店頭の張り紙や求人誌、求人サイト、採用オウンドメディアなどを利用して募集します。予算に応じて求人広告を掲載する媒体を決めましょう。従業員を採用したら、開業までに担当業務(接客やパン製造など)に関する研修を実施してください。

なおパン屋を含む店舗の開業準備について下の記事に詳しくまとめてありますので、併せてご覧ください。

パン屋開業の問題点やリスク

パン屋開業の問題点やリスク

開業準備の流れを把握して計画を立てたら、パン屋開業における問題点やリスクを確認しておきましょう。資金や集客などの課題を把握しておくことで、失敗を防ぐことができるからです。4点に整理して解説していきます。

初期費用が高く回収に時間がかかる

食品製造業の中でパン製造業の初期費用は高く、上で解説したとおりに1,000~2,000万円程度です。開業前に資金を調達できないと、開業準備を進めることができません。また開業してから利益を上げ続けなければ、初期費用を回収することもできません。

開業資金において特に設備費の占める割合が大きいです。店舗の規模によって設備費は変動しますが、設備費だけで300~1,000万円ほどになります。例えば新品の業務用オーブンの価格は300万以上で、他にも冷蔵・冷凍庫、や発酵器、ミキサー、フライヤーなどの設備・備品が必要です。

初期費用を抑える方法として、居抜き物件の契約や中古品の購入・リースなどがあります。ただし居抜き物件に店舗を開業する場合には、スケルトン物件に比べてデザインの自由度が狭くなるというデメリットがあります。各方法のメリット・デメリットを検討したうえで、費用を節約しましょう。

競合となるパン屋が多い

日本全国で約12,000店舗のパン屋が営業しているので、どのエリアに開業しても競合店が存在するでしょう。パン屋業界の競争激化を原因として売上が伸び悩み、廃業に追い込まれてしまうリスクがあります。

パンは個人経営のパン屋だけでなく、パン製造業のチェーン店やスーパー・コンビニなどで販売されています。売上を上げるためには、開業前の徹底した市場調査が重要です。自社の強みを活かすコンセプトを設計することで、競合店から差別化を図りましょう。

パンの原材料費が高騰している

パンの原材料である小麦の価格は変動しやすいため、パン屋経営においてコスト管理が難しいというリスクがあります。農林水産省によると、国内で消費される小麦粉の約9割が輸入小麦から作られています。

参考:農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格について」

小麦輸入価格は、2018年頃から増加傾向です。輸入小麦は国によって買い付けて輸入されたあとに、製粉業者などに売り渡されています。政府の売り渡し価格は半年ごとに見直しされていて、2021年度の下期は上期と比べて19%の引き上げとなりました。価格高騰の要因は国際的な取引相場の高騰や海上運賃の上昇などであり、引き上げは2期連続でした。

参考:農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」

原材料が高騰すれば、当然パン屋経営にかかるコストも上昇します。仕入れ値が上がり続けると利益率が下がり続けるため、パンの値上げを検討しなければなりません。薄利多売のパン製造販売業において、コスト管理を徹底しながら利益を生み出す経営努力が必要になります。

製パン技術の習得に時間がかかる

自社がパンを製造して販売する場合には確かな技術が必要です。技術を習得して安定した品質を保てるまでに、長い時間がかかる点を覚悟しなければなりません。

パンの発酵には気温や湿度が大きく影響してくるために、1年を通して同じ味を維持する技術と経験が必要です。生地をこねるときの力加減や水の量、発酵時間など、パン職人としてパン作りの感覚をつかむには一般的に5~10年かかります。さらにトレンドに乗って集客を伸ばすためには、独立後も新たな知識や技術を身につける努力が必要です。

参考:神戸製菓専門学校「パン製造技能士の資格取得について」

なお経営者としてパン屋の店舗数を拡大させていきたいなら、従業員の育成体制を整える必要もあります。働きやすい雇用環境を整備して、顧客だけではなく従業員にとっても魅力的な職場を提供しましょう。

パン屋開業の成功例

パン屋開業の成功例

パン屋開業の問題点を克服してリスクを回避できれば、集客を伸ばしながら利益を上げられます。パン製造技術はもちろんのこと、集客のために店舗デザインや広告宣伝などを工夫しているパン屋開業の成功例をご紹介します。

魅力的なデザインとスムーズな動線のパン屋

集客するために、まず魅力的な店舗デザインによる顧客へのアピールが大切です。「美味しいパンを販売するお店に違いない」と顧客に感じさせる店舗をデザインできれば、道行く人を店舗へ呼び寄せやすくなります。

例えば店舗前にウェルカムボードを設置して、おすすめパンをアピールしましょう。また店舗の道路側をガラス張りにすることで、一目でパン屋だと分かるだけではなく、陳列している商品が見えやすくなります。

また売上を上げるためには、店舗内におけるスムーズな動線も重要です。陳列された商品を見てもらうために、顧客が入店してから出るまでの動線を一方通行にしましょう。顧客が目当てとするパン以外も目に入るので、客単価アップを狙えます。

オープンキッチンを施工しているパン屋

オープンキッチンを施工すると、視覚と嗅覚の両方を刺激して顧客の購買意欲をかき立てる効果を得られます。販売スペースとオープンキッチンの距離が近いことで、パン屋の近くを通るときに焼きたてのパンの香りを届けられます。

また顧客が店内を訪れると、オープンキッチンでパンが出来上がっていく「ライブ感」を味わえます。生地をこねたり成形して並べたりしている様子は、エンターテイメントとして楽しんでもらえるでしょう。

さらにキッチンを見せることで、パン屋の食品衛生に対する安心と信頼を顧客に与える効果もあります。衛生管理された場所で実際に手作りをしている工程を見せれば、「店舗内で製造された安心・安全なパン」という印象を持ってもらえるでしょう。

SNSを活用しているパン屋

集客のためにSNSを活用することは、大変有効な手段です。特に若年層を開業するパン屋のターゲットにするなら、若い世代のユーザーが多いインスタグラムが効果的です。インスタ映えをするパンの写真を多く掲載すれば、ターゲット層の目に留まりやすくなります。

例えば「色どりの鮮やかなフルーツサンド」や「卵と野菜がたっぷり詰まったボリュームサンド」などのインパクトある写真を投稿しましょう。写真を見たインスタユーザーに「パンを購入してインスタに載せたい!」と思ってもらえれば、集客を見込めるでしょう。

なお通常の投稿だけでなく、ストーリー機能を活用してタイムセールやパンの焼き上がり時間などの情報を掲載すると、より集客効果を得られるでしょう。

パンごとに焼き上がり時間をずらしているパン屋

パンごとに焼き上がり時間をずらせば、各時間の売上アップを期待できます。顧客にとって、焼き立てパンは大きな魅力になります。目当てのパンだけでなく他のパンも合わせて買う顧客が多く、店頭に焼き立てパンの並ぶ時間が長いほど売上が上がりやすいです。SNS上の告知と合わせて実施すると、より効果的に集客できます

計画的な準備でパン屋開業を成功させよう!

計画的な準備でパン屋開業を成功させよう!

パン業界の競争は激しく、開業準備は多くて幅広いですが、独自性のあるコンセプトに基づいて店舗をデザインできれば安定した集客を見込めます。ご紹介した成功事例を参考にしながら、計画的に開業準備を進めましょう。

IDEALではパン屋を始めとする店舗のコンセプト設計から内装デザイン、資金調達、Web集客などをワンストップソリューションでご支援しております。

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監修者

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