2022.09.25  2022.09.23|新規開業ノウハウ

居抜き物件の造作譲渡とは?造作物や契約書・相場・節約法・減価償却

居抜き物件の造作譲渡とは?造作物や契約書・相場・節約法・減価償却

本記事で、居抜き物件の造作譲渡について解説します。譲渡される造作物や契約書、譲渡料の相場と節約法、減価償却などについてご紹介します。

「造作譲渡とは、一体何?」「造作譲渡料の相場を知りたい!」とお悩みではありませんか?居抜き物件での開業や移転、リニューアルなどを検討している方は、ぜひご覧ください。

居抜き物件における造作譲渡とは?

居抜き物件における造作譲渡とは?

居抜き物件における造作譲渡は、旧借主が物件内に残した造作物(内装や設備、什器など)を新借主に譲渡することを指します。居抜き物件とは旧借主が施工した内装や設備・什器などが残された物件で、次の記事内で解説していますのでご覧ください。

「造作物」は、物件に造り付けられた内装や設備などを意味する建築用語です。しかし造作譲渡により、備品(調理器具や施術器具など)や什器(イスや商品棚など)も譲渡されます。無償で譲渡されることもありますが、造作譲渡料を支払って造作物を譲り受ける方法が一般的です。

店舗の内装や設備、什器などを造作譲渡してもらえると、店舗開業前に設備購入費や工事費を抑えることができます。ただし不要な内装や設備が物件内に残されていると、撤去や改装の費用がかかります。居抜き物件のメリット・デメリットについて下の記事にまとめてありますので、併せてご覧ください。

また居抜き物件と異なり内装や設備、什器などが残されていない躯体だけの物件は、スケルトン物件と呼ばれます。スケルトン物件を賃借して内装工事する場合には、退去時にスケルトン状態に戻す原状回復義務が一般的に求められます。下の記事にまとめてありますので、併せてご覧ください。

造作譲渡できる物

造作譲渡できる物

造作譲渡により造り付けの内装や設備だけではなく、備品や什器も譲り受けることができます。しかし物件内にある全ての物を譲渡できるわけではありません。そこで造作譲渡できる代表的な物をご紹介します。

内装

1つ目は、内装です。内装とは建物内部に施工される天井や壁、床や装飾などです。壁紙や床板だけでなく、鴨居や敷居、ドア、造作家具(カウンターや棚)なども内装に含まれます。

店舗物件の内装を譲渡してもらえると、元の状態のままに活かすことができますし、必要に応じて部分的なデザイン変更も可能です。例えば内装の雰囲気を変えたい場合には壁紙や床材を貼り替えたり、造作カウンターの天板をのみを変更したりできます。

ただし居抜き物件の内装デザインを大幅に変更すると、スケルトン物件よりも工事費用がかかる場合があります。また内装を活用できる分だけ、デザインの自由度が低くなる点にもご注意ください。

什器

2つ目は、什器です。什器は「店舗家具」とも呼ばれ、商品が陳列される棚や施術に使用されるベッドなどを指します。置き型のテーブルやイス、ショーケースはもちろん、試着室やレジ台なども什器にあたります。

特に大型什器を新規購入すると費用がかかりますので、譲渡してもらうメリットは大きいです。営業や内装デザインに活用できる什器であれば、新たに探す手間もかかりません。

ただし譲り受けられる什器について、必ず旧借主に確認を取ってください。旧借主が什器を売りに出したり、引き取ったりする場合があるからです。

設備

設備

3つ目は、設備です。居抜き物件の設備には、空調設備や排気設備、厨房設備などが含まれます。特に高額な設備費がかかる業種や大規模な店舗の場合は、設備の譲渡は費用面の大きなメリットになります。

しかし同じ業種(例えば飲食業)でも異なる業態の居抜き物件に開業する場合(例えば焼肉店をカフェに改装する場合)には、適した設備ではないために改装工事が必要になる可能性があります。

そこで物件探しの段階で、開業したい業種・業態に合った設備の確認が必要です。設備の状態や図面なども、譲渡契約前に確認しておきましょう。譲渡後すぐに故障してしまうと、修繕費がかかるからです。

備品・機器

4つ目は、備品・機器です。通信機器や音響機器、レジスターなどが該当します。ただし備品・機器は幅が広く、譲渡契約に含まれない場合もあります。造作譲渡の対象物を一点ずつ確認しましょう。

また契約内容で「〇〇一式」として譲渡されると、不用品処理の費用がかかる場合があります。譲渡契約前に活用できない物を確認できれば、処分費用を割り引いた造作譲渡料になるように条件交渉を旧借主にご提案ください。

契約条件によって譲渡される備品・機器が異なりますので、契約内容を細部までご確認ください。後からトラブルを招かないように、旧借主と書面で契約を締結しましょう。

造作譲渡の契約書

造作譲渡の契約書

造作譲渡においては、造作物だけでなくさまざまな取り決めを行う必要があります。取り決めをまとめた書類が、造作譲渡の契約書です。目的や必要事項をご理解のうえ、造作譲渡の契約書を作成してください。

造作譲渡の契約相手

造作譲渡の契約相手は、2者に分かれます。1者は物件の旧借主であり、もう1者は物件の貸主ですどちらを相手とする場合でも、居抜き物件の賃貸借契約と別に造作譲渡契約を結びます。

旧借主が退去していない段階でしたら、新借主が旧借主と造作譲渡契約を結びます。理由は、旧借主がまだ造作物を所有している状態だからです。ただし通常は旧借主に物件の原状回復義務があります。造作譲渡契約を結ぶために、物件の貸主からの許可を得なくてはなりません。

旧借主が退去している段階でしたら、新借主が物件の貸主と造作譲渡を契約します。物件の旧借主が貸主に造作物を譲渡しているため、貸主が造作物を含めて物件を所有しているからです。また物件の貸主が、内装や設備、什器等を施工した状態で居抜き物件を貸し出している場合もあります。

契約書の目的

新借主にとって、造作譲渡契約書を作成する目的はいくつもあります。まず譲渡される項目と価格を明確化することです。造作譲渡契約は造作物の所有権と金銭を交換する契約ですので、譲渡される項目と価格を明らかにする必要があります。

また造作譲渡契約書作成には、原状回復義務の所在を明確化する目的もあります。退去時の原状回復義務の有無や範囲を事前に明らかにすることが必要です。理由は、退去後のトラブルを回避するためです。

参考:e-Gov法令検索「民法」(第五百六十二条)

さらに契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)を明確化する目的もあります。譲渡された内装や設備、什器が安全基準を満たしていないとトラブルが発生する危険性があるため、責任の所在を明らかにする必要があります。

参考:大阪府「民法改正等に伴う契約書の改正について」

なお固定資産を計上する際の証明として、造作譲渡契約書が必要です。契約書に基づいて減価償却の基準を決めるのですが、減価償却について後ほど解説します。

契約書の項目

契約書の項目

造作譲渡契約書には、一般的に下記の項目が盛り込まれます。

  • 物件貸主(所有者)からの承諾の有無
  • 譲渡される造作物のリスト
  • 造作譲渡料
  • 支払いの方法と期日、遅延対処
  • 引き渡しの期日
  • 契約不適合責任
  • 原状回復義務の所在と範囲
  • 契約解除の条件と違約金

造作契約書の項目には契約不適合責任や原状回復義務の所在契約解除の条件などが含まれますので、無償譲渡の場合でも契約書が必要です。また造作物の個数や譲渡料、支払い方法に関しても定めておきます。

なお造作譲渡後のトラブルを避けるために、物件の旧借主(造作物の旧所有者)が責任を追う期間(契約不適合責任の内容)を定めておく点も大切です。

契約上の注意点

造作譲渡契約では、いくつかの注意点があります。まずはリース契約の有無を確認してください。リース品が譲渡される場合には、旧借主から新借主へリース料の支払い義務が移行します。残りのリース契約期間分だけ、ランニングコストが発生するからです。

また造作物の故障や欠損もご確認ください。故障している設備や什器が譲渡される場合には、修繕費の負担者を取り決める必要があります。思わぬ修繕費が発生すると、開業資金の調達にも影響します。

さらに不用品処理の費用負担についても明確にしておきましょう。不用品の撤去や処理の方法を定めておくことで、契約手続きが円滑に進みます。

造作譲渡料の相場と節約のポイント

造作譲渡料の相場と節約のポイント

居抜き物件の造作譲渡契約を結ぶと、設備購入費や内装工事費を節約できると解説しました。内装工事費用の相場を踏まえて、造作譲渡料の相場と節約のポイントを確認しましょう。

造作譲渡料の相場

造作譲渡料の相場は、100万〜300万円程度です。同じ飲食店物件でも、ダイニングフロアと厨房を備えた飲食店物件の設備や什器を譲渡されるよりも、テイクアウト・デリバリー専門の小さな物件の造作譲渡料のほうが安くなる傾向にあります。

ただし造作譲渡料は、基本的に造作物の数と状態だけで決まるわけではありません。物件の規模や立地、造作物の需要などが評価されて、「造作物を含めた物件の価値」が設定されます。造作譲渡料の相場が分かると、物件取得後に行う内装工事費用の予算を立てやすくなります。

店舗の業種・業態にもよりますが、スケルトン物件の内装工事費用は坪単価30万〜50万円程度です。例えば20坪のスケルトン物件の内装工事費用は、600万〜1,000万円程度になります。居抜き物件の内装工事費用が300万〜500万円に収まるなら、造作譲渡料を含めても居抜き物件のほう(合計400万~800万円)が安くなります。

節約のポイント

造作譲渡料をできるだけ節約することで、開業や移転の費用削減につながります。造作譲渡料を節約するポイントとして、まず物件の貸主や旧借主と値下げ交渉を行ってください。交渉をする際は、タイミングや造作物の状態を確認しましょう。

物件の明け渡し予定日が近づいてくると、旧借主は造作譲渡料を下げてでも造作譲渡契約を成立させることを希望します。また造作物の劣化や故障は、交渉材料になり得ます。値引きしてもらったり、故障している造作物の処分費用を負担してもらったりできる場合があります。

造作譲渡の減価償却

造作譲渡の減価償却

造作譲渡料は経費として一度に計上されるのではなく、減価償却されて(使用期間に分けて)計上されます。減価償却は節税につながりますので、考え方や注意点を確認しましょう。

減価償却とは?

減価償却とは、建物・設備などの有形固定資産を取得した際に費用(経費)を一定期間内に分配して計上する税務処理方法です。分配する期間を自由に決めてよいわけではなく、法律で定められた耐用年数を適用します。減価償却と耐用年数について下の記事にまとめてありますので、併せてご覧ください。

例えば接客業務用の家具の耐用年数は5年、金属製のアーケード(日除け)は15年、冷暖房機器は6年です。耐用年数の起点は購入日ではなく、使用を開始した日になります。耐用年数を確認する場合には、国税庁のWebサイトや減価償却資産の耐用年数等に関する省令をご覧ください。

参考:

国税庁 確定申告書等作成コーナー「耐用年数表」

e-Gov法令検索「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第一

耐用年数の求め方

耐用年数は使用を開始した日から数えられますが、居抜き物件においては造作物の耐用年数を求める計算が必要です。耐用年数の求め方は、以下の式のとおりです。

  • (本来の耐用年数ー経過年数)+(経過年数×0.2)

経過年数とは、旧借主の使用開始日から新借主の使用開始日(新借主の営業開始日)までに経過した年数のことです。例えば接客業務用家具(耐用年数5年)を、旧借主の使用開始日から3年後に取得した場合の経過年数は3年となります。

  • (5年-3年)+(3年×0.2)=2+0.6=2.6年

上記の計算結果は2.6年となりますが、1年未満の期間は切り捨てられます。したがって上記の家具の耐用年数は、2年となります。

減価償却するときの注意点

減価償却するときの注意点として、なるべく資産の取得年度や金額が分かるようにすることがあげられます。取得年度や金額が分かる書類(譲渡目録)があれば、資産ごとの耐用年数を適用して計上ができます。可能であれば、譲渡目録を作成してもらうことをおすすめします。

しかし譲渡された造作物の取得年数や金額が分からない場合は、最も長い耐用年数を全ての造作物に適用することになるからです。最も長い耐用年数に合わせると、経費として計上する期間が長くなります。

ただし旧借主の造作物の管理状況によっては、正確な譲渡目録を作成できない場合があります。造作物の耐用年数を判断できない場合には、税務署や税理士などの専門機関・専門家に相談しましょう。

契約方法や相場を把握したうえで造作譲渡契約を結ぼう!

契約方法や相場を把握したうえで造作譲渡契約を結ぼう!

居抜き物件に店舗を開業する場合には、譲渡される造作物や譲渡契約の方法を把握したうえで、造作譲渡契約をむすびましょう。造作譲渡後の節税対策として、減価償却を頭に入れておく必要もあります。

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